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長く活躍するモデルの共通点を事務所視点で読み解く

2025年6月9日

なぜ今、あえて「長く活躍するモデル」について語るのか。

それは、私がこの業界を取材し始めた30年前とは、モデルという職業のあり方が根底から変わってしまったからです。

光文社の編集者として過ごした90年代、雑誌の表紙を飾る「カリスマモデル」は、文字通り社会現象でした。
彼女たちが身につけた服は瞬く間に売れ、そのライフスタイルは多くの女性の憧れの的となる。
しかし、その熱狂の裏側で、ブームが去ると共に消えていく才能も数え切れないほど見てきました。

「モデルの寿命は短い」。
それは、事務所にとっても、モデル本人にとっても、抗いがたい現実だったのです。

フリーランスに転身してからも、私はモデル事務所という「夢を扱う現場」の光と影を追い続けてきました。
そして気づいたのは、時代の変化とともに、「長く活躍する」ためのルールが大きく書き換えられたという事実です。

この記事では、30年近くにわたる取材経験から見えてきた、一過性の人気で終わらないモデルたちの共通項を、彼女たちを支える「事務所の視点」から深く読み解いていきたいと思います。

「長く活躍するモデル」とは何を指すのか

そもそも、「長く活躍する」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。
かつてのように、ただテレビや雑誌に出続けることだけが成功の証ではなくなりました。
現代におけるモデルの価値は、より多角的な指標で測られます。

活動年数・市場価値・影響力──3つの評価軸

長く活躍するモデルを評価する際、私は主に3つの軸で見ています。

  • 活動年数: デビューから現在までのキャリアの長さ。これは経験と信頼の証です。
  • 市場価値: 契約金や出演料といった直接的な価値に加え、彼女を起用することで企業や商品にもたらされるブランドイメージ向上の効果を指します。
  • 影響力: SNSのフォロワー数やエンゲージメント率に代表される、世間への発信力と共感を呼ぶ力。これは今や、市場価値を左右する極めて重要な要素です。

特に「影響力」は、消費者の購買行動にも直結します。
SNSで共感した情報がシェアされ、購買に繋がるという流れは、もはや当たり前になりました。
モデル個人の発信が、ひとつのメディアとして機能する時代なのです。

90年代“カリスマ”期から見るモデル寿命の推移

私が編集者だった90年代、モデルのキャリアは刹那的でした。
次々と新しい顔が登場し、トレンドが変われば、あっという間に過去の人になってしまう。
「モデルの賞味期限は3年」と、まことしやかに囁かれていたほどです。

しかし、現代ではその常識は通用しません。
人生100年時代と言われるようになり、キャリアの考え方そのものが変化しました。
ひとつの仕事を極めるだけでなく、学び直しやキャリアチェンジを組み合わせ、生涯にわたって活躍し続ける「マルチステージ」という生き方が注目されています。

これはモデル業界も例外ではありません。
年齢を重ねることをキャリアの終わりではなく、新たなステージへの移行と捉え、活躍の場を広げ続けるモデルが増えているのです。

事務所が見抜く長寿モデルの資質

では、事務所はどのような点を見て、そのモデルが長く活躍できるかを見抜くのでしょうか。
一瞬の輝きではなく、10年、20年先まで走り続けられるモデルには、共通する「資質」があります。

1. 体型維持ではなく“身体マネジメント”へ

かつてモデルに求められたのは、規定のサイズを維持する「体型維持」でした。
しかし今は違います。
求められるのは、心身ともに健康な状態を自ら作り、管理する“身体マネジメント”能力です。

単に痩せているだけでは、長丁場の撮影を乗り切る体力も、豊かな表現を生む気力も維持できません。
食事、トレーニング、休養のバランスを考え、常に最高のパフォーマンスを発揮できるコンディションを保つ。
ピラティスや栄養学の知識を取り入れるなど、自分自身の身体と深く向き合う姿勢が、長期的なキャリアの土台となるのです。

2. プロフェッショナリズム──現場力と時間管理

長く信頼されるモデルは、例外なくプロ意識が高い。
これは、単に時間を守るといった基本的なことだけを指すのではありません。

撮影現場における「現場力」こそが、プロフェッショナリズムの真価を発揮する場所です。

  • コミュニケーション能力: カメラマンやスタイリストの意図を正確に汲み取り、チームの一員として円滑に仕事を進める力。
  • 準備と提案力: 事前に企画内容を深く理解し、自分なりの表現やポージングを準備して現場に臨む姿勢。時には、より良い作品にするための提案も行います。
  • 人間性: どんな状況でも感謝の気持ちを忘れず、周囲への気配りができること。

こうした総合的な力が、スタッフからの「またこの人と仕事がしたい」という信頼に繋がり、次の仕事へと繋がっていくのです。

3. 変化適応力──トレンドとライフステージ両面での更新

ファッションのトレンドが絶えず移り変わるように、モデル自身も変化に適応し、自分を「更新」し続ける必要があります。

重要なのは、トレンドとライフステージという2つの側面での適応力です。

流行のメイクやファッションを自分らしく取り入れるのはもちろん、結婚や出産といったライフステージの変化さえも、キャリアの武器に変えていく。
かつてはキャリアの断絶と見なされがちだった出来事を、新たな表現の幅や、同じ境遇の女性たちからの共感を得る機会として捉え直すしなやかさが、モデルの寿命を大きく伸ばします。

長寿モデルを生む事務所戦略

個人の資質はもちろん重要ですが、それだけでは長く活躍することはできません。
その才能を最大限に引き出し、守り、育てていく「事務所の戦略」が不可欠です。
モデルと事務所は、二人三脚でキャリアを築いていくパートナーなのです。

戦略の柱具体的な役割目的
契約と案件選定モデルの個性や方向性に合わない案件を断る勇気。長期的な視点での仕事選び。ブランドイメージの毀損を防ぎ、モデルの価値を高める。
イメージマネジメントSNSでの発信内容に関する指導やモニタリング。炎上時の迅速な対応。予期せぬトラブルからモデルを守り、キャリアを安定させる。
横串ネットワーク俳優業、商品プロデュース、海外エージェンシーなど、多方面へのコネクション構築。モデルの可能性を広げ、新たなキャリアパスを切り拓く。

契約と案件選定:リスクヘッジとブランド構築の両立

事務所の最も重要な仕事のひとつが、案件の選定です。
目先の利益に飛びつくのではなく、モデルのブランドイメージを長期的にどう構築していくかという視点が欠かせません。
時には、大きな仕事であっても「今は受けるべきではない」と判断する勇気も必要です。
この地道な選択の積み重ねが、モデルの価値を確固たるものにしていきます。

イメージマネジメント:炎上回避と再ポジショニング術

SNS時代において、炎上はモデルのキャリアを一夜にして揺るがしかねない最大のリスクです。
事務所は、モデルの発信が社会の感覚とズレていないか客観的にチェックし、トラブルを未然に防ぐ防波堤の役割を担います。
万が一問題が起きた際には、迅速かつ誠実に対応し、ダメージを最小限に食い止めなければなりません。
これは、モデル個人では極めて難しい、組織だからこそできるリスク管理です。

横串ネットワーク:異業種・海外エージェンシーとの連携

モデルとしてのキャリアが成熟してきた時、次の一手をどう打つか。
その道筋を示すのも事務所の重要な役割です。
俳優業への挑戦、自身のブランド立ち上げ、あるいは海外市場への進出。
事務所が持つ異業種や海外へのネットワークが、モデルの可能性を大きく広げ、キャリアの第2、第3ステージを切り拓くための強力な武器となるのです。

ケーススタディ:今も一線で輝く3人の軌跡

これまで述べてきた資質や戦略が、実際のキャリアの中でどのように結実しているのか。
今も第一線で輝き続ける3人のモデルを例に、その軌跡を見ていきましょう。

Case A ─ ライフステージ連動型キャリアシフト

専業主婦から30代でモデルデビューした滝沢眞規子さん。彼女の魅力は、その丁寧な暮らしぶりやファッションが、多くの同世代の女性にとっての「憧れ」と「共感」を両立させている点にあります。家庭を持つ女性としてのリアルな視点が、彼女を唯一無二の存在に押し上げました。

結婚や子育てといったライフステージの変化を、見事にキャリアの強みに転換した代表例です。

Case B ─ 海外市場を突破口にした再ブレイク

10代で世界のトップメゾンを総なめにした冨永愛さん。彼女のキャリアは、常に「挑戦」の連続です。一時の休業や困難を乗り越え、再びパリコレの舞台に立った姿は、多くの人に勇気を与えました。海外という厳しい市場で戦い続けた経験が、彼女に圧倒的な存在感と揺るぎない自信を与えています。

現状に満足せず、常に高みを目指す姿勢が、彼女をトップモデルの座に留まらせているのです。

Case C ─ SNSセルフプロデュースで拡張する影響力

モデルの枠を超え、絶大な影響力を持つローラさんや長谷川潤さん。彼女たちは、SNSを巧みに活用し、自らのライフスタイルや価値観を発信することで、新たなファン層を獲得しました。特にハワイでの自然体な暮らしを発信する長谷川さんの姿は、ウェルネスに関心が高い現代女性の心を掴んでいます。

事務所の管理に頼るだけでなく、自らメディアとなって発信する「セルフプロデュース能力」が、現代のモデルに新しい可能性を示しました。

まとめ

長く活躍するモデルと、それを支える事務所。
両者の関係性を紐解くことで、いくつかの重要なキーワードが浮かび上がってきました。

共通項の整理とキーワード

  • 身体マネジメント: 体型維持から、心身の健康を管理する能力へ。
  • プロフェッショナリズム: 現場でのコミュニケーション能力と準備力。
  • 変化適応力: トレンドとライフステージの変化をキャリアの力に変えるしなやかさ。
  • 戦略的パートナーシップ: モデルと事務所が一体となり、長期的な視点でキャリアを築く関係性。

渡辺綾子の視点:事務所とモデルが“夢と現実”を両立させる条件

私が長年見てきた中で確信しているのは、長く続く関係性は、事務所とモデルが互いを尊重し合うパートナーである、ということです。

事務所はモデルを「商品」としてではなく、「ひとりの働く女性」としてリスペクトし、その人生に寄り添う。
モデルは事務所を信頼し、プロとして自己管理を徹底し、チームの一員として最高の仕事をする。

「モデル事務所とは、夢を扱う現場であり、現実と理想の摩擦が生まれる場所」。
この摩擦を乗り越え、夢と現実を両立させることこそ、長く活躍するための唯一の条件なのかもしれません。

読者への示唆:次世代モデル育成と業界の未来

モデルという職業は、これからも変化し続けます。
しかし、どれだけ時代が変わろうとも、誠実さ、プロ意識、そして変化を恐れない姿勢といった本質的な価値は、決して色褪せることはないでしょう。

この記事が、これからモデルを目指す人、そして彼女たちを支える業界関係者にとって、未来を考えるための一助となれば、これに勝る喜びはありません。
例えば、名古屋で活躍できるモデル事務所を探しているのであれば、こうした地域に特化した情報を参考に、自分に合ったパートナーを見つけることがその第一歩となるでしょう。

最終更新日 2025年6月9日