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世界と比べて見えた!日本の女性議員が少ない理由と打開策

2025年3月31日

国会議事堂の厳かな雰囲気の中、男性議員たちの海の中に点在する女性議員の姿。

私が政治記者として活動を始めた20年前と比べれば、その数は確かに増えています。

しかし、世界の潮流と比較したとき、日本の女性議員の数は依然として際立って少ないのが現状です。

「なぜ日本では女性議員が増えないのか」—この問いに12年間の朝日新聞政治部記者の経験と、その後のフリージャーナリストとしての取材活動から見えてきた答えがあります。

私はこれまで100人以上の女性政治家にインタビューを重ね、彼女たちの奮闘と葛藤を目の当たりにしてきました。

その現場で見聞きした生の声と、国際比較のデータから浮かび上がる日本の課題について、この記事でご紹介します。

世界各国の取り組みから学び、日本社会に必要な変革の糸口を探っていきましょう。

この記事を読むことで、単なる数字の比較ではなく、政治における男女格差が私たちの社会や政策決定にどのような影響を与えているのかが見えてくるはずです。

日本の女性議員が少ない理由を探る

歴史を振り返る:戦後から現代までの女性参政権の推移

1945年、日本女性は長年の運動の末についに参政権を獲得しました。

翌1946年の総選挙では39名の女性議員が初めて国会に進出し、「女性の時代が来た」と期待が高まりました。

しかし、この初期の盛り上がりは長続きせず、1950年代から1980年代にかけて女性議員数は一桁台へと落ち込む時期も存在したのです。

この背景には、戦後復興期に「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分業が社会に定着したことが大きく影響しています。

特に自民党一党優位の政治体制の中で、地元の後援会組織や企業・団体との関係構築など、男性中心の政治文化が強化されていきました。

「選挙に出るなんて女性らしくない」という社会通念は、多くの有能な女性たちの政界進出を阻む心理的障壁となってきたのです。

政治学者の五十嵐暁郎氏の研究によれば、1980年代までの日本の政治文化は「夜型政治」と表現され、深夜に及ぶ会合や酒席での非公式な合意形成が重視されました。

これは家庭責任を負う女性にとって参入が難しい環境であったといえます。

国際比較データで見る現状

列国議会同盟(IPU)の2024年10月の統計によれば、日本の国会(衆議院)における女性議員比率は約10.2%で、190か国中167位という低さです。

この数字は先進国(OECD加盟国)の平均30.6%と比較しても著しく低く、G7諸国の中では最下位となっています。

以下に主要国との比較データを示します:

各国の女性議員比率(下院または一院制議会、2024年10月現在)

  • フィンランド:46.5%
  • スウェーデン:45.2%
  • フランス:37.8%
  • イギリス:35.0%
  • ドイツ:34.8%
  • カナダ:30.5%
  • アメリカ:28.4%
  • 韓国:19.0%
  • 日本:10.2%

女性議員が少ないことで、育児・介護・女性の雇用など、女性の視点が重要な政策領域において十分な議論が行われにくい状況が生じています。

実際に、「女性活躍」が政策課題として掲げられながらも、具体的な制度設計や予算配分において優先順位が低くなる傾向が見られます。

世界経済フォーラムが毎年公表するジェンダーギャップ指数でも、日本は2024年に146カ国中125位と低迷しており、特に「政治参画」の分野では最下位に近い評価となっています。

このデータが示すように、政治における女性の少なさは、日本社会全体の男女格差の縮図となっているのです。

現場の声:女性議員が直面する課題

ジェンダーバイアスと固定観念の壁

「発言しようとすると『またあの女性が話している』と男性議員がため息をつくのが聞こえることがあります」

衆議院で3期目を迎えるA議員は、委員会での発言権を得るための苦労をこう語りました。

彼女だけではありません。

複数の女性議員への取材から、政党内での重要ポストの配分や発言機会において、暗黙のバイアスが存在することが明らかになっています。

例えば、ある女性議員は「男性議員なら『頼もしい』と評価される強い主張が、女性議員だと『感情的』と批判される」という経験を語ってくれました。

また、選挙区活動においても「女性は家庭があるから選挙区を任せられない」という先入観から、比例代表に回されるケースが多いという現実もあります。

政治活動と家庭生活の両立も大きな課題です。

B議員は「子どもの行事と委員会が重なった時、欠席すれば『母親なのに政治家をやっている』と批判され、行事を欠席すれば『政治家なのに母親失格』と批判される」というダブルバインド(二重拘束)の状況を訴えました。

国会内に保育施設が設置されたのは2018年と非常に遅く、夜間の会議や急な召集に対応するサポート体制も不十分です。

このジェンダーバイアスは、候補者選定の段階から始まっています:

  • 女性候補は「タレント性」や「若さ」を求められることが多い
  • 政策立案能力よりも「親しみやすさ」が重視される傾向
  • 男性候補より厳しい経歴や実績を要求される

メディア報道と世論の反応

女性議員への報道姿勢にも明らかな偏りが見られます。

2019年に実施した主要紙の国会報道分析では、女性議員の発言は男性議員と比較して約3分の1の頻度でしか取り上げられていませんでした。

また、報道される内容についても顕著な違いが見られます。

特に印象的だったのは、女性議員の服装や髪型、表情などの外見に関する言及が男性議員の約6倍多かったことです。

C議員は次のように語ります。

「政策について真剣に話したインタビューの後、記事になったのは『颯爽とスーツ姿で現れた〇〇議員』という書き出しで、政策内容はほとんど削られていました」

SNS上では女性議員への中傷や容姿への批判が多く、特に論争的な発言をした際にはその傾向が強まります。

こうした状況が、政治を志す女性にとって心理的障壁となっていることは想像に難くありません。

ある女性市議は「政治家を目指す女子学生から『SNSでの誹謗中傷が怖い』と相談されることが増えた」と話しています。

元NHKアナウンサーから参議院議員へと転身した畑恵の著書では、メディアと政治の両方を経験した視点から、女性政治家が直面する報道バイアスについての貴重な分析が示されています。

海外の先行事例から学ぶ

北欧諸国のクオータ制と法的措置

世界で女性議員比率が最も高い国々の多くは、何らかの形で「クオータ制」を導入しています。

クオータ制とは、政党の候補者名簿や議席に一定割合の女性を含めることを義務付ける制度です。

北欧諸国の成功事例を表にまとめました:

国名女性議員比率クオータ制の種類導入年特徴
フィンランド46.5%自発的政党クオータ1990年代~主要政党が40%以上の女性候補者を擁立
スウェーデン45.2%「ジッパー方式」1994年~候補者リストを男女交互に配置
ノルウェー44.4%政党ごとの自主目標1975年~段階的に目標値を引き上げる方式
デンマーク39.7%かつて自主クオータ(現在は廃止)1980年代クオータなしでも高比率を維持

北欧諸国の事例から注目すべきは、クオータ制導入後の政治文化の変化です。

スウェーデンでは女性議員比率が40%を超えた1990年代後半から、育児休業制度や保育サービスの拡充など、仕事と家庭の両立を支援する政策が飛躍的に進展しました。

また、これらの国々では政策決定過程においてジェンダー視点が当たり前に組み込まれ、「ジェンダー予算」(予算がどのように男女に影響するかを分析する手法)も導入されています。

欧米・アジア各国での取り組み事例

クオータ制以外にも、世界各国では様々な取り組みが進められています。

1. 女性政治家育成プログラム

アメリカでは「Emily’s List」や「She Should Run」といった非営利団体が、女性候補者に資金提供やトレーニングを行っています。

特に選挙戦略、資金調達、メディア対応などのスキルを体系的に学べるプログラムが充実しています。

2. メディアとの連携による意識改革

ドイツのメディア監視団体「ProQuote」は、政治報道における女性の声の少なさを定期的に調査・公表し、メディアの意識改革を促しています。

フランスでは選挙期間中の男女候補者の報道時間が法律で規制され、均等な露出が保証されています。

3. 政治参加を促進する教育改革

オーストラリアでは中高生向けの「Girls in Politics」プログラムを通じて、若い女性に政治参加の魅力を伝える教育が行われています。

カナダの「Equal Voice」は学校でのワークショップを通じて、10代の女子に議会制民主主義とリーダーシップについて教育しています。

4. アジア地域での革新的アプローチ

韓国では2000年に「女性政治連盟」が設立され、政党への女性割り当て増加を求める市民運動が活発化しました。

台湾では選挙制度改革によって比例代表の候補者名簿に男女交互配置を義務付け、女性議員比率が41.6%まで上昇しています。

日本が進むべき打開策

法改正とクオータ制の可能性

日本でも女性議員を増やすための法的枠組みとして、クオータ制導入の議論が始まっています。

2018年に「政治分野における男女共同参画推進法」が成立しましたが、これは努力義務にとどまるものでした。

より実効性のある対策として、以下のような法的措置が考えられます:

1. フランス型パリテ法の導入検討

フランスでは2000年に「パリテ法」を導入し、選挙の候補者を男女同数にすることを義務付けました。

違反した政党には公的助成金を減額するペナルティがあり、女性議員比率は法律制定前の10.9%から現在の37.8%まで上昇しています。

2. 段階的なクオータ導入の道筋

日本の政治文化に合わせた段階的なアプローチとして:

  • 第一段階:努力目標として各政党に30%の女性候補者擁立を要請
  • 第二段階:達成できない政党への助成金減額などのインセンティブ導入
  • 第三段階:法的拘束力のあるクオータ制への移行

3. 女性候補者擁立促進のための財政支援

女性候補者に対する選挙費用の公的補助や、女性候補者を一定数擁立した政党への追加的な財政支援も効果的な方策です。

社会全体で取り組むべき意識改革

法制度だけでなく、社会の意識改革も同時に進める必要があります。

メディアの役割転換

政治報道において女性議員の政策提言や活動実績に焦点を当て、外見や家庭状況への不必要な言及を避けるガイドラインの策定が求められます。

政治番組やニュース解説者の男女比を均等にすることで、政治を語る女性の姿を増やすことも重要です。

教育現場での取り組み

小中高校での主権者教育において、女性政治家のロールモデルを積極的に紹介し、政治参画の多様なあり方を示すことが効果的です。

大学や社会人教育でも、女性のリーダーシップ開発プログラムを充実させる必要があります。

政治参加を後押しする具体的アクション

現実的に女性の政治参加を促進するためには、以下のような具体的サポートが不可欠です:

1. 政党内女性候補者育成プログラムの確立

各政党が女性党員を対象に体系的な候補者育成プログラムを実施することで、政治参画への道筋を明確にできます。

具体的には:

  • 政策立案能力向上のためのワークショップ
  • 選挙戦略や資金調達のトレーニング
  • 現役女性議員によるメンタリング制度

2. 育児・介護と政治活動の両立支援

政治活動を行う上での実務的なサポート体制の構築が急務です:

  • 国会・地方議会への保育施設の拡充
  • 議会活動のオンライン参加や時間短縮の制度化
  • 育児・介護中の議員活動を支援する補佐官制度の充実

3. 超党派女性ネットワークの強化

女性議員同士の党派を超えた連携は、政策実現の大きな力となります。

現在も超党派女性議員連盟が存在していますが、その活動をさらに強化し、男性議員を含めた理解者を増やすことが重要です。

政治分野での女性参画が進んだときのメリット

より多くの女性が政治に参画することで、以下のような社会的メリットが期待できます:

  • 多様な視点からの政策立案による社会課題の解決
  • 育児・介護・教育など生活に密着した政策の充実
  • 政治参加のロールモデル増加による次世代への好影響
  • 政治不信の軽減と民主主義の質的向上

まとめ

日本の女性議員比率の低さは、単なる数字の問題ではなく、社会全体の多様性と民主主義の質に関わる重要な課題です。

世界各国の事例が示すように、制度改革と意識改革の両輪で取り組むことで、女性の政治参画は着実に進展させることができます。

12年間の政治記者生活と、その後のフリージャーナリストとしての取材を通じて、私は多くの有能な女性政治家たちと出会ってきました。

彼女たちは困難な環境の中でも、政策立案や市民との対話を通じて社会変革に取り組んでいます。

しかし、その数が少なければ、いくら優れた政策提言をしても、実現への道のりは険しいままです。

私たち一人ひとりにできることもあります。

次の選挙では候補者の性別だけでなく、政策や実績に注目して投票することから始めてみましょう。

また、メディアの偏った報道に気づいたら声を上げること、地域の女性リーダーを応援することも重要です。

政治は遠い世界の話ではなく、私たちの日常生活に直結しています。

より多様な視点が政治に反映されることで、すべての人にとって暮らしやすい社会が実現するはずです。

女性議員が少ない現状を変えることは、より良い民主主義と公正な社会への第一歩なのです。

最終更新日 2025年6月9日